『虹の獄、桜の獄』竹本健治:文、建石修志:絵

虹の獄、桜の獄
(本の内容に触れています、未読の方はお気をつけください)
この短編集は月刊誌光文社「EQ」に掲載された「七色の犯罪のための絵本」の7編と書き下ろし『しあわせな死の桜』の8編からなります。
この短編集の巻頭の『赤い塔の上で』は男が身を投げるシーンで終わっているのだが、この短編からお話しが始まることが示すように、大人は物語の世界から消えて行っています。
この本の帯文には『大人のための暗黒童話、ついに完成!』と書かれていて、倉橋由美子の「大人のための残酷童話」を連想されますが、物語の中に大人らしい大人は存在せず、『赤い塔の上で』の塔の上から身を投げる男の物語に象徴的なように、無力な大人しか描かれていないことを思えば、残酷童話からの連想は必ずしも妥当とは思えません。そして、暗黒童話というのは的を得ているとも言えます。
後半の『紫は冬の先ぶれ』『しあわせな死の桜』の示すように、少年たちでさえ、死に追いやられてゆくようなのです。『しあわせな死の桜』に登場するユズキからはユズキカズの漫画「枇杷の樹の下で」に登場する傍若無人な少年、少女を連想させますが、ユズキカズの漫画に登場する少年、少女とユズキとは別の存在のようにもみえます。別の存在であり、同一の存在でもあるということなのだろうと思います。
また、別の存在のように見えて、重なるというのは、ユズキがぼくと重なり、ぼく自身であったように、ぼくというフィルター、ぼくというメタフィジカルな視点を通すからかもしれません。それは『ぎんの風が吹き抜けるとき』でも私が少女に重なり、少女自身であった不気味さと同じく、とても恐ろしいのです。
『しあわせな死の桜』はとても印象深い作品です。竹本健治が凝縮されていると言ってもいいかもしれません。
ゴーちゃんも渡も遠く、彼方に後退してゆきますが、彼らは決して消えてはいない。
「ぼく」はきっと、彼らを見つけ出すはずです。
それは読者として、そうあってほしいと思うからだけでなく、作品の中に現実の世界が込められていると感じるからです。

10月16日のアレクセイさんのコメントでもお分かりのように、この本は、お二人の作品を愛するアレクセイさんの長年温めてこられた企画だったので、装丁の不満から、がっかりもされたようですが、一般的に言えば、買って損はない短編集です。
好みではない青い色のブックカバー、私が作るとしたら(おこがましいはなし)、43ページ『紫は冬の先ぶれ』の建石さんの鉛筆画を全面プリントにしたい。左側縦書きでタイトル。その下に縦書きに2人の名前がいいかな。


29日はこのあと庭園とライヴにも行ったのですが、そのことはまた次回に(笑)。



#旧古河邸


【コメント欄関連URL】
成瀬巳喜男について浮雲
http://www.allcinema.net/prog/show_c.php?num_c=136620
近藤みわ子さんのサイト「再観、成瀬巳喜男
http://www5b.biglobe.ne.jp/~bjt/index.html#i-a
林芙美子について  林芙美子アナキストたち
http://www.ocv.ne.jp/~kameda/hayashifumiko.html
川本三郎林芙美子の昭和』の書評
津野海太郎(NHKBSの書評番組3つめ)
http://www.nhk.or.jp/book/review/review/030330.html

久世光彦北海道新聞
http://www5.hokkaido-np.co.jp/books/20030323/3.html
森まゆみさんの解説 『林芙美子 放浪記』 
http://www.yanesen.net/books/mayumi/1314/


平林たい子について『妖精と妖怪のあいだ 評伝・平林たい子』著:群よう子http://booklog.kinokuniya.co.jp/kono/archives/2005/09/post.html
平林たい子賞
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B9%B3%E6%9E%97%E3%81%9F%E3%81%84%E5%AD%90%E6%96%87%E5%AD%A6%E8%B3%9E

カムイ伝』についてhttp://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%A0%E3%82%A4%E4%BC%9D
小学館公式サイト『カムイ伝田中優子
江戸時代の差別構造外観
http://comics.shogakukan.co.jp/kamui/article_write02.html
カムイ伝』から見える日本
http://comics.shogakukan.co.jp/kamui/article_write.html
名もなく貧しく美しく監督:松山善三
http://movie.goo.ne.jp/movies/PMVWKPD20165/
『青燕』という映画のモデルをめぐる論争記事http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2005/10/16/20051016000045.html