断片

歪められた風景、抉り取られた眼球、あるいは騙されたと思って騙されるということ

緩やかに日の伸びゆく三月。 丘の上の午下がりの薔薇園からは、街が見下ろせて、このテラスで、ふたりは出会うことがある。 Aは二杯目のココアを前に、落ちたばかりの足掻いている一匹の羽虫をスプーンで掬い上げながら、昨日みた夢《えぐりとられた眼球》の…

春に

古いコンクリート塀の続くわき道を歩きながら見あげた空は青く澄み渡り、春の嵐など想像させもしない。 人の高さほどのコンクリート塀の上には錆びた鉄条網がはりめぐらされ、潅木の暗い茂みは、立ち入り禁止の米軍跡地の廃墟のなかで、遠く高い巨大な鉄塔だ…

わたしのまち

真昼の郊外の丘に続く瀟洒な街。 敷き詰められた舗道、大人の背ほどの立ち木が等間隔に植えられている。 歩道も車道も山を切り崩して電車の開通とともに、開発された新興の地にふさわしくゆったりとして。 行き交う車もなく、なだらかな人工の丘陵に沿って、…

写真

ここに一枚の写真。光沢の下ですでに退色しはじめた、セピア色に近づきつつある手のひらサイズの写真がある。 そこには、ドカンのような遊具の上に佇む私。 季節は冬だろうか。朝の光のような陽射しを受けて直立している私はカメラに向かって緊張しながらも…

四月の光

輪郭をもたない昼下がりの太陽が四月の空に、光の粒子を降り注ごうとする時、逆光の鈍色の道にはなにもなくて、あの大球技場を回り込むように伸びた四車線道路から一台の軽トラックがやって来る。 その軽トラックはどんな色だったのか、誰かが乗っていたのか…