春に

azamiko2007-03-11



古いコンクリート塀の続くわき道を歩きながら見あげた空は青く澄み渡り、春の嵐など想像させもしない。


人の高さほどのコンクリート塀の上には錆びた鉄条網がはりめぐらされ、潅木の暗い茂みは、立ち入り禁止の米軍跡地の廃墟のなかで、遠く高い巨大な鉄塔だけが三月の空に突き刺さり、外部と交信しているものは他にないと思わせた。


コンクリート塀のわき道を歩きながら、少し汗ばむ午後の陽射しに。
道は途切れたところで幹線道路と交差し、行き交う車は埃っぽい風景の中に消えてゆく。

今しがた聞いたソプラノ歌手の高音域をか細い身体を微動させ、のけぞらせながら恍惚とも苦悩ともとれる表情で歌う「メリーウイドー」


花粉の舞う、三月。
ひとは何を思うだろう。
ことばを継ごうとした矢先、扉は閉ざされてゆき、まみえることもなく、ただ、
春のおとずれは何かの予兆でもあるかのように、不安にさせる。
それでも、待ちわびていたと思いながら。