『花いちもんめ』『花らんまん*1』中里春平

azamiko2006-06-27



ずいぶん、前に書評を読んで、本を探したけれど見つからなくて諦めていました。当時、ネットで本を探すことを知らなかったのです。
書評は大内史夫氏によるもので、とても丁寧に書かれていたので、本を読んだかのように錯覚していました。
けいせい出版が倒産して絶版になっていた昭和62年発行の『花いちもんめ』は、古風なつくり、本もインクの色もセピアがかっています。
デッサン力に優れ、ディテールや背景、情景も丁寧に描きこまれている。
小学校上がる前の病弱な少年やっちゃんを主人公にしたこれら一連の作品は、無垢な子どもとねえやといわれる少女や母との精神的、肉体的結びつきを描いたエロチシズムの濃い、類をみない独自の世界。
それがどろどろとしたものになっていないのは、やっちゃんの無垢、好奇心、それ故の行動と
ねえやや母のやっちゃんへの無償の愛。
それは共依存のようでありながら、やっちゃんがいずれ成長する子どもであることを思えば、むしろ、母やねえやこそがやっちゃんに依存しているようにも思えます。
エロティシズムが痛みを伴って感じられます。
病弱なやっちゃんも、子どもであり続けることはできません。桃源郷の住人でい続けることはできないし、それだけの強さももっています。
それに比べて、女手ひとつで育てている母やねえやがいかに社会的に無力で、閉ざされているかということは、物語世界の中で成立しているのは分かっていても、とても不安になるのです。
無力で不安ゆえに物語世界は桃源郷であり、やっちゃんと母、ねえやの関係はエロティシズムなのだと思います。