『蟻の兵隊』監督:池谷薫

azamiko2006-09-08



日中戦争に従軍し、戦後も共産軍と戦い中国に残留した元兵長奥村和一さんのなぜ残留させられたか、国への戦後補償とみづからの戦後をたどるドキュメンタリー。


残留に関わる文書をみつけるべく、山西省に赴く奥村さん。
車の窓から見る風景を「懐かしい」という。
部隊が殺害した中国人の生き残りの子孫に対面した時には、相手につめより、自分が無意識に日本兵として対面していたと語る。
中国の放送局のインタヴューを受け、硬い表情のインタヴュアーを前に、かつて日本兵として中国人を殺害したが、何人殺したかは問題ではない。私がなぜ戦ったのかが問題だと語る奥村さん。私は「蟻の兵隊」だった―中国に残された日本兵 (岩波ジュニア新書 (537))



印象的だったのは、奥村さんが老人であることや温厚な表情にもよるのだろうか、中国の人たちの元日本兵奥村さんをみる目の意外なこだわりのなさ、温かさだった。
妻に中国で人を殺したことは語れないという奥村さんに、「家族に中国でしたことを語りなさい」と諭す同年輩の女性は戦時中、日本兵によって、拉致・監禁・強姦され、同胞からも蔑まれたという人だった。


それでも、映画の中の彼には日本兵として中国で戦った加害者としての意識は希薄のように感じられる。
死んでいった戦友たちの無念をはらすため、皇軍を立て直すべく、日本兵として残留したにもかかわらず、認められないということの怒りが彼の行動の根幹のように思えた。
そのことに割り切れないものを感じるのは、戦時を生きていないものの思い上がりだろうか。
あるいは、カメラの前に、明かされない顔があるのだろうか。