『ロード・オブ・ウォー』監督:アンドリュー・ニコル

(以下映画の内容にふれています。未見の方はお気をつけください)
ニコラス・ケイジ演ずるユーリー・オルロフは一家でユダヤ人を装いウクライナからアメリカに移住して来た。
ロシア・マフィアの銃撃戦を目撃したことをきっかけに武器商人となり、名を上げる。
映画として全編、飽きることがなく、よくできた作品といえる。
しかし、なぜか、実在の武器商人をモティーフにしたリアルな話であるにもかかわらず、緊迫感が伝わってこない。
危険な場に居合わせているにもかかわらず、リアリティーを感じない。
むしろ、映画の中のフィクションの部分の方に映画としての面白さがあるように思えた。
かつて憧れであったエヴァに近づくために実業家を装ってする工作や弟ヴィタリー・オルロフの死。国際刑事警察機構ジャック・バレンタインの追跡など。
すでに、映画の中のリアリティーは現実に比して、ずっと、色褪せてしまっているからではないだろうか。
最後のクライマックスであるはずのユーリーが国際刑事警察機構につかまっても、裏でCIAと繋がっているので釈放され、売買相手の情報提供、国として表立ってできない取引を肩代わりしているという事実の暴露も、最大の武器商人が大統領であるというメッセージも、少しも衝撃ではない。
フィクションだからなのではなく、現実はずっと先にあり、そんな事実は、すでに分かりすぎるほど分かっているからではないか。
それゆえ、真面目に作られた映画でありながら、どこか現実感が希薄に感じられる。
それでも、印象に残るシーンはいくつかあった。
兵器の見本市。迷彩服を着て、銃を構え、リズムに合わせて踊るキャンペインガールたち。表向きは平和を唱えながら、兵器の買い付けをする各国要人。現実を考えれば、当たり前の事実が、不意をつかれたようで、ショックだった。
ユーリーが冷戦崩壊後のウクライナに帰郷し、将軍の叔父から戦車や戦闘機、兵器を法律に反して買い付け運び出す。倒されたレーニン像に座って携帯電話をかけながら、その前を延々と運び出される戦車の列。
これら兵器は、実在の武器商人から借り、撮影されたもので、320億ドルの兵器が冷戦後、旧ソ連から海外に売リわたされたという。
弟ヴィタリーの死の原因になる難民キャンプそばでの武器売買は、買い付けた兵器で難民を虐殺することを目的にしていたという、もっともショッキングなシーンだったが、ニコラス・ケイジの演技はどこか冷めている。これが演技なのか何なのか。
全編、ニコラス・ケイジの演技は冷めている。それが自虐的に語るという部分では生き、リアリティーを感じさせなければならない部分ではどうもしっくりしない。
ユーリーは、妻子も父母も兄弟も失なって、なお武器商人であり続ける。
そうさせているものは何なのか。映画の中では、兵器売買の才能というように表現されていたが、兵器に対するフェティッシュと思えてしかたなかった。




原美術館


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武器規制キャンペーン
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