『式日』脚本・監督: 庵野秀明

azamiko2005-10-28

(映画の内容にふれています。未見の方はお気をつけください)

いかにも古そうなこのビデオを借りたのは、『花とアリス』や『ラヴレター』のあの監督岩井俊二(「あの」なんて言っても知らない人多いかしら?)が出演者に書かれているのをはがれかけたラベルにかすかに目にしたからです。本作の監督が『新世紀エヴァンゲリオン』の庵野秀明だというのは、つゆ知らず、WEBを開いてはじめて知りました。ちょっと驚き。エンドロールの字も定かにみえないほどテープが古かったのです。(^−^;Love Letter [DVD]
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この映画は主演の藤谷文子の小説『逃避夢』を原作にしています。ストーリーは母と娘の関係とそれを克服する物語ですが、これにはちょっと問題あり。それについては、後で触れるとして、とにかく面白かった。とても面白かった。何が面白かったかというと主人公女性のシテュエーションがとても興味深いのです。逃避夢/焼け犬
彼女は20歳前後(映画の中で年齢についても言及されていたか、いなかったか)精神不安定で、毎日のように、ビルの屋上から身を乗り出しては、その日一日を生きていていいか、生きていけるかと問います。手を離さずにいられたら、その日を生きてゆける。自分に問うているようでいて、そうでもない、なにか刃の上に立っているようなのです。
カントクが彼女に出会ったのは、赤い傘を持って線路を枕に寝ていたときでした。これも彼女の日課であり、いわば、一日の儀式なのです。彼女のこころは傷つきやすく壊れやすい。死と隣り合わせにいるようです。しかし、なぜかとても明るい。カントクは映画創作に行き詰まりを感じていたときで、ふたりは何となく親しくなってゆきます。
ほかには居住者のいないらしいビルに住んでいる彼女の広い部屋には赤い電話が4本あって、このビル、部屋がそのままフィクションへの通路にもなっています。この住まいはそのまま彼女がフィクションの住人であることを物語っています。しかし同時に彼女にとってこのフィクションの世界こそがリアルな世界であるということのはずです。
地下室の水のあふれるシーンはとても印象的です。庵野秀明ならではの脚本であり、監督作だといえます。
映画という虚構の世界の中のリアルとフィクションの境界は曖昧で、彼女は曖昧に繋がったリアルとフィクションの世界を行き来しています。観客はそのフィクションから溢れ出す空気に浸されてゆきます。
カントクは映画という虚構の世界を作り出す人ですが、この映画の物語世界の中ではリアルな存在として曖昧に繋がったリアルとフィクションの中にいます。これは庵野秀明の立つ場であり、不安に突き動かされる立ち位置でもあるのだと思います。
そしてさらにこのカントクという存在もまた、『式日』という映画という装置の虚構の世界の存在にすぎません。
私たちは現実の中で映画という虚構の世界の中にさらにリアルとフィクションとをみるという入れ子状態におかれます。
なにが現実でなにが虚構か。映画はすべて、虚構なのか。
では、私たちの生きている現実が虚構ではないといえるのか。

前述の「問題あり」とは彼女が自分の作り出した物語世界に生きるようになったのは、母との精神的結びつきに問題があり、それが原因と明かされますが、これはあまりに安易におもえます。家族が母と彼女だけだったわけでもなく、原作の藤谷文子が安易に母性神話に結びつけ、母にだけ責任を負わせた印象がぬぐえません。克服する物語になっているので、ひとつの物語としてはそれはそれでいいのですが。
無条件に愛する人の存在。それはもちろん、人が自立して生きてゆく上で一方では、とても大事なことなのだけれども、現実にあるリアルな問題を短絡的に、卑近なものにしてしまった印象さえ与えます。
加古 隆の音楽はすばらしい。むしろ映像に嵌りすぎるほどに。




龍安寺


【コメント関連URL】
「三周ヶ岳、夜叉ヶ池」
http://gifu.view-japan.gr.jp/tozan/diary/031025.htm
『夜叉が池』原作泉鏡花、監督篠田正浩(1979年制作)http://movie.goo.ne.jp/movies/PMVWKPD19015/

鈴木杏に関するURL
空中庭園
http://kuutyuu.com/
『青い鳥』
http://www.ne.jp/asahi/anne/suzuki/page008.htm
http://www.tbs.co.jp/tbs-ch/lineup/d0392.html ←「若い」鈴木杏の写真も。
ロミオとジュリエット』←蜷川幸雄演出で藤原竜也と舞台で共演
http://www.ne.jp/asahi/anne/suzuki/page011.html
リターナー金城武と共演
http://www.returner.net/

『一撃』スティーブン・セガール主演
http://www.action-movie.jp/ichigeki/productionnotes.html
シネマ下高井戸
http://www.ne.jp/asahi/kmr/ski/shimotakaido_cinema.html#

『不滅の男 エンケン日本武道館
http://www.fumetsuman.com/