『17歳の風景〜少年は何を見たのか』監督:若松孝二〜もがれた翼

母を殺した17歳の少年が自転車で日本海べりを北上。少年の言葉はほとんどありません。少年の吐息と車輪の音。脇を通り過ぎる車の音、波の音、海鳥のなき声などが重なります。風景は渋谷の雑踏、延々と続くアスファルト、海岸、波の中を突き進む砂地だったり、海鳥の舞う海だったり。わずかに出会う人たちとの会話、それも風景の一部のようです。
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もがれてはじめて飛ぶことを欲望したのか。
翼のもがれた身体で飛ぶための助走をしたのか。
若松ファンには失敗作との評もあるようですが、カメラの捉える少年の溶け込んだ風景と車輪を駆ける息づかいとに飽きることはなかった。特に印象的だったのは海鳥の舞う砂地を波に向かって突き進むシーン。この海鳥のシーンは辰巳ヨシヒロの『鳥葬』やつげ忠男の『カラスのかんざぶろう』を思い出した。
ときどき挟まれる母の姿、殺害の一瞬。少年にとっても観客にとっても脳裏を離れないこの現実を説明するものは何もない。★★★★