[映画]『ライフ・イズ・ミラクルズ』監督:エミール・クストリッツァ

エミール・クストリッツァ監督作品は今まで『アンダーグラウンド』『ジプシーのとき』『白猫・黒猫』を観ていますが、走る、転がる、飛ぶ、落ちる、壊す、ぶつかり合う、この摩訶不思議さは日本映画の伝統に最も遠いのでは。アンダーグラウンド [DVD]黒猫白猫 [DVD]
ジョニー・デップフェイ・ダナウェイの『アリゾナ・ドリーム』もフィルモグラフィーエミール・クストリッツァ作品だというのをはじめて知りました。アリゾナ・ドリーム [DVD]

ライフ・イズ・ミラクルズ』はサラエボ紛争のさなかにあった実話を基にしたとか。セルビアボスニアとの民族紛争の苦い記憶が蘇ります。
現実諷刺、反骨精神、底に流れる人間讃歌。生命への讃歌はこの新作でも強烈です。もう、クストリッツァとしか言いようのない猥雑さと清らかさ。
ルカを追うサバーハの一途な愛。サバーハを必死に助けようと雪の上に血を滴らせた橇を引くルカと意識の遠のく中で微笑むサバーハのシーンはビットリオ・デ・シーカの『ひまわり』を思いださせます。ひまわり デジタルリマスター版 [DVD]
ロシア娘(リュドミラ・サヴィエーエヴァ)が雪の中で瀕死のイタリア兵(マストロヤンニ)を引きずりながら家に連れ帰るシーン。ここでは敵対する民族、救うものと救われるものの男と女が反転しています。この作品がロミオ&ジュリエットを意識してつくられたといわれますが、『ひまわり』も必ず意識されていたはずです。
いつも動物がよく出てくるのも印象的ですが、泣く驢馬が象徴的です。そのほか熊、犬。ジャム&バターつきパンを食べる太った猫が可愛くて、可笑しい。民族紛争を象徴しているペットのデブ猫と犬との猛烈な喧嘩はどうやって撮ったものでしょう。
ピーター・ブリュ−ゲルの『狩人』の絵そのままのシーンがあったり、ジプシーブラスも楽しめました。★★★★