『アザリアのピノッキオ〜七つの断章による狂詩曲〜』パレスチナキャラバン

azamiko2007-10-14



落ち葉の樹林をぬけて、ロバの曳く荷車を先頭に楽団とともにやってくるパレスチナの一団。
日の傾いた公園がアザリアの夜に繋がっていると気づく日。


テントは仕掛けである。
エルサレルの村アザリア、ピノキオの絵本のページ、日本の百人町。
リアルとフィクションが時間と空間を超えて交錯、翠羅臼的リリシズムあふれる舞台。


ピノキオは世界を冒険する。
パレスチナからやってきたアフマド少年。


ウードの調べ、パレスチナの歌。


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団長: アザリアの少年・・・。
サラ: 乾ききった私たちにひと山のオレンジの実を黙って差し出してくれた・・・。
団長: それを砂まみれのショールで・・・。
サラ: そう。あたしはこれで受け取った。あの時のオレンジの香りがまだ染み付いているよぉ。
団長: (匂いをかぎ)砂漠とオレンジの匂い・・・。
サラ: 探して、探して、探しくたびれたよぉ。あなたを探しくたびれてこんなにおばあさんになっちゃった。





団長: わたしはまだここにいるのか。自由なのか、それとも知らぬままに獄にいるのか。壁の向こうのこの海はわたしの海だ。あんたが目の前に見ている男は俺じゃない。俺は自分の亡霊よ。亡霊が二人砂漠ででくわしたら、同じ砂の上をあるくだろうか?夜にあらがって競い合うだろうか?
サラ: あたしが目の前に見ているのは、亡霊でも化石でもありません。団長さん、あなたです。
団長: どうしてそんなにもわしにこだわるんだ。
サラ: どうしても渡さなければならないものがあったから。
団長: それは?
サラ: これです。あなたが彫り、ムハンマド少年に託したピノッキオです。
(トランクを開け、黒焦げのピノッキオ人形を取り出す。団長は人形を抱き取り、頬ずりし、悄然と立ち尽くす。ピノッキオの体から砂が零れ落ちる。・・・あとから、あとから)


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老人: 影の主はわしの知らない言葉を話す奇妙なひとたちだった。わしはそっと近づいて身振りをまじえてこう言ってみた。
少年: 君たちどこから来たの?
天幕の隙間から人形(ノラ)が現れる。
ノラ(サラの声): 海の向こうから。
少年: (日本語)海?(潮騒が聞こえる)(アラビア語)バフル・・・
ノラ: バフル?・・・海・・・
老人: 海の向こうから?
ノラ: 風の吹くまま
少年: 風?リーハ、リーハ・・・
老人: 風の向くまま?
少年: 海と風、それが最初に覚えた異国の言葉だった。でも僕は一度も海をみたことがなかった.。
老人: だからわしは一握りの砂をつかんでこう言った。
少年: (砂をさらさらと落とし)これは・・・ラムル・・・。
ノラ: (同じ砂を落とし)砂・・・ラムル・・・?バフル(海)?
少年: ここは海じゃないよ。サフラーフだよ。
ノラ: 砂漠?
少年: そう、ラムルさ。
ノラ: (小さい砂の道を造る)道。
少年: 道?・・・(アラビア語)そうか砂の道のことか。
道?タリーク?
ノラ: 道、タリーク、海、バフル・・・風、リーハ・・・砂、ラムル・・・道、タリーク・・・(驢馬を指差して)・・・?
少年: それはヒマール(驢馬)さ。
ノラ: バフル・・・リーハ・・・タリーク・・・ヒマール・・・
少年: 君たちは海の向こうから風の向くまま、砂の道を通ってここまでやってきた・・・驢馬に曳かれて・・・?
ノラ: ・・・(頷く)


砲弾の音。


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ピノッキオ人形、オリーブの樹の下で後からあとから降り続ける砂に埋もれ、
ながれながら、つもりながら、砂は、いつしかオリーヴの葉に変わる・・・。


テントシートは落ち、驢馬の荷車を押すパレスチナ・キャラヴァンは帆船に導かれるように夜に遠ざかってゆく。
現実の中に。 EXISTANCE IS RESISTANCE
遠のいてゆく一団に手を振らずにいられなかった。



東京、名古屋、京都巡演。
京都公演を残すのみ。




#『アザリアのピノッキオ』屋外劇