映画監督 川島雄三@国立近代美術館フィルムセンター

azamiko2007-07-23



幕末太陽傳』『雁の寺』『しとやかな獣』などの傑作で奇才、モダニストと言われる川島雄三の特集を約40日にわたり京橋の東京国立近代美術館フィルムセンターで上映、三本しか観れなかったものの、あらためてファンになってしまった。


傑作といわれる『洲崎パラダイス 赤信号』をぜひとも今回みたかったのだが、開演10分前に満席で入れず。
とても残念。洲崎パラダイス 赤信号 [DVD]

『貸間あり』はごった煮のようなおもしろさ、フェリーニ
『花影』は現実にいきづまる女給のなんともやるせない映画だった。


喜劇から、文芸もの、メロドラマありで、川島雄三はほんとうに不思議なひとだ。
しかし、そこには透徹したリアルな目があることが分かる。


川島が監督第一作『帰って来た男』を撮ったのは昭和19年。
戦況はいよいよ厳しくなり、映画はすべて、戦意高揚するものでなくてはならなかったはずである。
しかし、『帰って来た男』は、とても、戦時統制の映画とは思えないほどの明るさ、軽さがある。
骨董屋の息子で南方から帰ってきた医師は、列車の中でドレスアップした女と知り合い、将棋をさすことに始まり、行く先々でこの女性と偶然に出会う。
すれ違いのメロドラマのパロディーのようでもあるが、この女性と結ばれるわけではない。
ほかに小学校の二人の女教師が登場し、それぞれの女性を短いながらも印象深く描いている。
軍事色といえば、貧しい勤労少年は、決して家が貧しいわけではなく、飛行場で勤労奉仕をしようとする軍国少年であり、家が恋しくなり帰ってきて、再び一家で出かけていくというちょっとおかしな話だったり、小学教師が南方に旅立つ理由が失恋だったりと、とても戦意高揚とはいかない。
おかげで、『帰ってきた男』は評価がよくなかったようなのだが、当時の観客はきっと楽しんだにちがいない。


川島はセット撮影中に召集令状を受けたが、小児麻痺を理由に即日帰郷になっている。
彼の病名は今でいう進行性筋萎縮症だったようだ。


上野昂志氏がトークショーで語っていたが、
川島雄三の作品で登場する主人公の男性は、たいがいあっちに行ったり、こっちに出かけたりと落ち着きがない。
それは川島自身ともかさなり、松竹、日活、東京映画、東宝大映といろんな映画会社を渡り歩き、45歳でなくなるまで、毎夜スタッフとともに、高額のギャラを残すことなく使い果たしたという。
彼は落ち着くことを嫌い、巨匠と呼ばれること、巨匠になることを嫌ったのではないか、と。

「現代を描いていくことになると、究極的に喜劇のかたちになると思うんです」


と『川島雄三と喜劇』のなかで川島自身が語っている。
しかし、パンフレットに掲載されている彼の端正な表情は、陰影が深く、憂鬱でさえある。とても喜劇を想像させない。


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勤皇の志士も同宿する宿に要領よく住む主人公を軸に人間模様を描いた川島のニヒリズムの代名詞ともいわれる『幕末太陽傳』のラストシーンを、川島は主人公が時代劇のセットを出て、現代の街中に走り出るという案を考えていたという。


彼のニヒリズムゆえの喜劇は映画の枠を超えて、なにより現代に流れ出すリアルな世界に繋がったものであったというあかしであろう。





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