エルメスとベンツとクリスマスイヴ


エルメスビルから、ソニービル、交差点にさしかかると、何年か前にみた光景を思い出します。
とても寒いクリスマスイヴのこと。
信号待ちで立っていると、ソニービルの面している外堀通りに止まる一台の黒塗りのベンツが目に入りました。
ドアが開くと、丸刈りの少年が降りてきました。
黒いズボンに薄い黒いウインドブレーカー、汚れ気味の白いジョギングシューズ、丸顔で丸坊主、顔色の悪い少年は、15、6歳くらいでしょうか、身体は華奢で中学生くらいのようにも見えます。
降りると、彼はベンツの横にドアボーイのように立ちました。
近くの公園で遊んでいるようないでたちの彼が銀座の真ん中のピカピカのベンツと、冬の曇天に巨大に伸びるソニービルの間に直立していることの不釣合いに目が離せなくなってしまった私と彼との目が合うと、苦笑いのように、はずかしそうに顔を歪めました。
しばらくすると、黒の上下の背広を着た恰幅のいい男性が、エルメスのオレンジ色の大きな紙袋をいくつも下げてやって来ました。
それがだれへのプレゼントなのかと想像させるほど、若頭ふうの男の下げていたオレンジの紙袋は目を惹きました。
ドアボーイは勤めを果たすと、男の後から乗り込み、黒いベンツは静かにスピードを上げ去っていきました。
彼は使い走りをさせられているにちがいありません。


その間、数分のことでしたが、丸坊主の彼のゆがんだ顔が忘れられず、年末の銀座の交差点に立つといつも思い出すのです。
もう、少年でもないはずの彼は『りっぱな』構成員になっているのでしょうか?