『イノセント・ボイス 12歳の戦場』監督:ルイス・マンドーキ

(映画の内容に触れています。未見の方はお気をつけください)
2005年ベルリン映画祭最優秀作品賞(児童映画部門)受賞。メキシコ映画
1980年代エルサルバドルの内戦の中を生きたオスカー・トレスが自ら脚本を書いた自伝的作品。

11歳の少年チャバが住む村は政府軍と解放軍との戦闘が絶えず、12歳になると、突然学校にやってきた政府軍によって、少年たちは連れ去られて行きます。
でも、このお話は決して憂鬱にさせる暗さだけに彩られてはいません。
貧しくても、子どもたちは友だちおもいで、母はアメリカに行ったきり帰ってこない父を待ちながら、ミシン仕事で生計を立てます。
チャバはいろんな人と出会います。
ちょっと勝気なかわいい女の子。
解放軍の兵士の叔父さん、行き先を告げるアルバイトをさせてくてたバスの運転手さん。教会の神父さん。聾唖者のアンチャ。
彼は子どもたちの遊び相手であり、道化的な存在でもありますが、チャバが殺されそうになるときに、わが身に追っ手を引き付けて助けます。
彼がほんとうに言葉を奪われるのは捕らえられ、木に吊るされた時です。
彼の無垢の存在がこの映画のタイトルそのものです。
夜に紛れて遊ぶシーンや少年狩りを逃れて一晩中屋根の上で彼方の夜空を見つめ、闇の中で輝く無数の星を数えるこどもたちのささやき声はこの映画の内容とタイトル『イノセント・ボイス』とを象徴的にあらわしている美しいシーンでした。


皮肉なことに、政府軍を支援しているアメリカに、母がミシンを売って、ひとり渡米することで逃れますが、自分だけが逃れたことを友だちにも、家族にも罪悪感を抱き続け、オスカー・トレスが生きてきたことは想像に難くありません。
世界に30万人いると言われる少年兵。
彼らの存在が戦争によって、つくり出されたものであり、戦争そのものもまたつくり出されたものであるということを誰もが思うに違いありません。