[映画]いつか読書する日@渋谷ユーロスペース


友人から評判を聞いて、一週間ほど前に行って来ました。
モントリオール国際映画祭審査員特別賞を受賞
保坂和志の小説を読んでいるような印象。と、思っていたら、トークショーに出演されたようです。
早朝に起きて牛乳配達、そのあとスーパーマーケットで働く、50歳、独身女性大場美奈子。彼女は坂の多い長崎の町に住んでいる。
美奈子の日常と坂の多いこの町は不可分のものとして、俯瞰した町並みは何回となく映し出されます。
彼女の日常はどこにでもある、ささやかな一つに過ぎないと言っているようにも思えます。
牛乳配達のまだ暗い早朝の町の風景が美しく、この映画の1シーンとして深く刻み込まれました。

フィルムに収められた日常の風景が不思議なくらい面白く思えるのは、なぜでしょうか?

だれも、自分の日常を写してみようとは思わない。
けれども、いったん観る側になったとき、人の日常は不思議なくらいドラマに満ちているんですね。
無意識の行動、身のこなし、会話、胸の奥深くしまった思い・・・。日常の中から、生身のドラマが立ち上がってくる瞬間。

カメラは牛乳配達、スーパーマーケット、福祉課の仕事、妻を看護する夫、認知症の夫を看護する老妻などの日々繰り返される生活をフィルムに見ることになる。
それは、みるという行為であって、現実の日常ではない。
観客はフィルムによって現実から隔てられています。
隔てられているからこそ、そんな繰り返される日常の中にある輝く時を映し出しているフィルムの現実に共感できるのでしょう。
だれもすべてを晒しては生きていない。
何かを内に抱え込みながら、秘めながら生きている。そして、どんなときにも必ず日常を生きている。
美奈子は『カラマーゾフの兄弟』を読んでいる。
寝室にはびっしり並べられた本。いつか読書する日のために。
いつか読書する日」を〈思う〉ことで現実から少し自由になれるようにも思います。
田中裕子の美奈子、とてもいいです。


監督の緒方明は『独立少年合唱団』というデビュー作でベルリン映画祭で新人賞を受賞しています。
この映画好きなんですね。
少年から青年になろうとする男子学生たちの歌うポルシカ・ポーレは、パセティックで、禁欲的な物語りそのものでした。




#ぶーちゃん、某大学守衛室のおじさんになついています。