『また、もりへ』マリー・ホール・エッツ〜笑う王冠

絵本を読んでいたら、太宰治が戦中筆を折り、発表のあてもなく、お伽噺を読み直して『御伽草子』を書いたという気持ちが分かるような気がしてきます。
『もりのなか』の続編『また、もりへ』も大好きなシーンがあるので、ご紹介させてくださいね。
これはいかにも続編らしい動物たちが少年を待っているところからはじまります。
動物たちは集まって得意技を披露して、誰がいちばんか腕比べをします。少年はラッパを吹いて呼び出しかかりに抜擢されます。
きりんは長い首を木よりもたかく伸ばし顔が見えなくなってしまいます。
ライオンはものすごい声でほえて、葉を木からふるい落とすほどです。
さるは木に駆け上ってぶら下がります。
熊はちんちんをして口であめやピーナッツを受け止めます。
「ほかに だれか、これが できるかね?」と象がいうと、かばもすいかやパンを口いっぱいに入れます。
あひるは水の上にうかんでみせます。
ねずみとへびはものすごい速さで草の陰を駆け抜けます。
おうむは飛び回わってしゃべります。
子象は逆立ちをして鼻でピーナッツをつまみあげます。
「ほかに だれか、これが できるかね?」と再び象がいうと、少年が逆立ちをして、ピーナッツをつまもうとして、笑ってしまいます。すると、動物たちはみんな目を丸くして少年を見ます。動物たちはだれも笑えないのです。少年が笑うのをみたくて、もう一度笑ってみせてくれとせがみますが、「むりだよ なにか おかしいことが なきゃ、わらえないよ」。象が鼻でくすぐると、少年がまた笑い出して、得意技の一等賞になりました。
象に乗って、花の王冠を被り森を行進しているとお父さんの呼ぶ声がします。象は少年を地面に下ろすと、くすぐったくて、また笑い出してしまいます。起き上がると、動物たちはもう一頭もいません。夢から醒めたのでしょう。おとうさんは少年に何がそんなにおかしいのかと尋ねます。
「みんな、ほかに なにも できなくてもいいから、ぼくみたいに わらってみたいんだって・・・」
「おとうさんだって、ほかに なにも できなくて いいから、おまえのように わらってみたいよ」
二人は手を繋いで家へ帰ります。
特に印象的な場面は、動物たちが見ている前で、少年が逆立ちをしているところ。
ピーナッツをつまもうとして笑い出したのに驚いた動物たちにせがまれ、また、くすぐられて笑っている場面。動物たちはみんな立ち上がってみています。
象の鼻から下ろされて、誰もいなくなった森で花の王冠を被って、くすぐったそうにお腹を抱えて笑い転げているシーン。木だけが聞いているようです。
それぞれ笑っている少年の絵は出色です。小さい絵ですがほんとうにおかしそう。いくらみても見飽きないくらいです。是非みなさん、わらっているシーンだけでも見てみて!子どもの時はこんなふうにわらい転げたなあ。
動物たちが芸を披露するたび「よろしい、なかなか よろしい」と承認されるところもいいですね。
少年は再び夢からさめますが、もう森は怖くはありません。表表紙と裏表紙には消えた動物たちの残像を見ている少年の後姿があります。目を凝らせば、動物たちがそこにいるのを感じます。少年の想像力はみえないものを見ています。
そしてお父さんの「おとうさんだって、ほかに なにも できなくて いいから、おまえのように わらってみたいよ」という慨嘆はひとしお心に響き、ひとごととは思えないのです。