詩・短歌
夕映えにジンジャーエールそそぐとき静まるまでの小さな嵐 音の燐粉は飛んでポロネーズ ピアニストの白い背中に 秋の日にバサラ婆裟羅と棕櫚は揺れ隣家のポストの滞る朝
まろやかな砂丘をたどれば月はうまれ 水脈(みお)に立つ一本の杭 落ち穂集めて 蜘蛛の眠りをさまたげし朝その樹の名を知らず #「支点ニ視点ヲ巻ク。」PHOT BY MS.BEE
蝉の落下に撃たれ 聖橋(ひじりばし)わたるとき日ざかりの八月十五日 サングラスの面(おもて)にゆがむ面影坂 夏蜉蝣(かげろう)ののぼりゆく夕 天窓の落ちたガラスを踏む音を 歌は聖なるこわれもの 「鳥の歌」よりもバッハよりも今宵雨の音を聞いていた…
初夏(はつなつ)の予熱のごとくしづもれるガラスの中に『未青年*1』序文*2は ビル街に観覧車をまわしグダグダの夏がはじまる名古屋Lovely 出所したばかりとふ老人に時刻(とき)を聞かるる出来町あたり 街なかのホテルの窓はふさがれて無数の窓が夕陽を返す…
劇場の誰もいなくなった客席に黒くたゆたふ遠き潮騒 石化した羽ばたき螺旋階段の靴音響ける二月の教室
秋冷えの蜘蛛の糸途切れ黒鍵にふれるマーカス・ロバーツ*1の爪 窓のない浴室の小さなバスタブは人魚の棺であるやもしれず # 『光リ射ス、影ニ挿ス』PHOT BY MS.BEE *1:ジャズピアニスト
アウレリウス・アウグスティヌスの文字列縦断し紙色の虫ページの果てを越え 水廊*1の光やさしくかぎろゐてわがうちにある音をしずめぞ 十一月 隣室のため息の聞こえるアパートの一室ひる闌け 闇の手に掬われるがごと駅頭にかろうじて立てるMemento moriを #…
グラスに雨はあふれパラソルたおして 海を消してゆくスコール 木漏れ日に落ち葉砕ゐて影を踏む いつか分かってくれるだろう
水影のひいてゆく浜貝をあつめてきみの指先細けれど スコールゆき雲間の光背に受けて海の記憶をあつめておりぬ 水を蹴るきみの足裏まぶしくて少女となりしふたたびの夏 この浜のわんこがいつもついてきて貝殻の音スカートにくるまれ 手のひらをかざせば岬遠…
この夏いくどめかの雷鳴窓辺の明かりないままに読む塚本邦雄 葉隠れに羽をふるわす朝際の吾子の出立つかなしみをふと
手のひらに輝けるもの玉虫の アストライアの遣わせしもの 腹ばいになってごらんよ草原にそっと背中をなでてゆく風 うすらかにほこり被れるデスマスク天衣を纏うそのひとの面 白浜の朝顔咲けり深き蒼海のあおさに融かす夕暮れ 炎天は明るい地獄でありて鳴かね…
夏うさぎ群れて駆けゆくさみどりの滑走路につづく草原の波 日没のあわい静かに融かしつつ古き鉄棒夏草に埋もれつ 驟雨去り廃園に風立ちぬ濡れ縁に落ちるハナモモの音 夏帽の飛ばされてゆく幹線道路母の意識は朦朧とせり #ゼリーの風 PHOT BY MS.BEE
捨てし鞄を拾いきて朧月アマゾンのとけい草もねむるらし 彎曲する日常劣化するリアル骨粗鬆症は治せますか #マタ登ッテ・・・ PHOT BY MS.BEE
飼い犬は家々のリビングにいて 雨に濡れる犬をみず 音叉のように雨はふり うつくしく老いることなど考えている 雨といふ誠実に白い傘を開く午後砂のこぼれる音はして 五月の光滴たるるヒメジョオン一木一草曠野の野に #下ッテ、PHOT BY MS,BEE
五月の歌は歌わざりき鉄線の花挿したしとおもう窓辺のあり 草萌えの朝の気配はそっと頬をなで睫をゆらす夢のまにまに
二月のベオグラード通りにも懸命に駄々こねる子がいて母がいて ガラスの一角獣は涙色をして歪められた風景を駆ける 冬街灯「モルダウ」聴きて肉体の檻に囚われかえる
ある日唐突にネズミ捕りのねずみ殺せぬ父の戦後を知りぬ #雪舟窓
垂直に切り裂いてゆく飛行機雲のあの日と同じ冬の青空 よるのバスに身をまかせているとひとりごとでてしまい 冬のはじまり ここではないどこか遠くふっと消えてしまいたくなる師走のある日 【コメント関連URL】 ピピロッティ・リスト「からから」展 #京都加茂…
ひそやかなるざわめき精霊たちの声をきけり大型書店地下に パールの光こぼれ私の町の見えるはるか鉄塔が突き刺さる
野に放て五月のうさぎ柔らかき草を食み縊らるるまで
遠花火だれかに語りかけたき夜 たか子
むせかえるジャスミンの花こぼれ落ち日米軍事同盟は語られ ブルース・ハーモニカヘッドホンからこぼれ終電車にねむれるきみは #国際フォーラム 【コメント関連URL】 長崎市への原子爆弾投下 BIN★さんのブログ「この記なんの記」6月9日に書かれている平…
満開をすぎて一面つもりゆく少年の轍大きく孤を描きて 亡き人の義歯口腔の闇を思えリ紅つつじ満開の日に #安吾の樹と名づけた桜 【コメント関連URL】 ラ・フォル・ジュルネ
・野を駆ける子羊のごときトイプードルも桟橋を行く曳かれながら ・振り向けば航路のかなた揺らめいて高層ビル群桜開花日 ・プラットホーム肩掛けカバンが食い込んで別れた友の言葉を思う ・かすかすの林檎食べつつ思い出す遠ざかるマンハッタンと波にゆれ …
ペンギンたちいっせいにさけぶ17時 恋人たちの去ったケープタウンに
月夜に廻るメリーゴーラウンド。 朝にはもう、誰もいない。 どこに行ってしまったんだろう。 ボクは取り残されて、 動かないメリーゴーラウンドを見ている。 朝陽が上ったこともきづかずに。 ボクはメリーゴーラウンドに乗っていない。 ボクはメリーゴーラウ…
はるのかんたんふで紹介されていて知りました。 心ならずも君が代を歌わなければない人のために、苦肉の策でつくられた替え歌ですが、日本人の少女が従軍慰安婦に出会うという設定。英語としてどうかはよく分かりませんが、傑作だと思います。 なぜ、君が代…
14日、「トスキナアの会」第三回講演会に参加。 時間を間違えて、早く着いてしまったので、近くの東禅寺を散策。 ここは、絞首刑で亡くなったアナキスト中浜哲と古田大次郎が散歩した閑静な寺。 会場を高輪福祉会館にしたのもふたりに謂れのある東禅寺がとな…
高橋悠治、古びた黒いトランクを提げて、前かがみで歩く、あの独特なくにゃりくにゃりで舞台をひと回り。グランドピアノのそばでトランクから譜面をとりだす。 スタンドランプをつけて、弾き始めたシューベルト『冬の旅』。 斎藤晴彦のバリトン歌手並の歌唱…